もっと知りたい方へ

情報セキュリティは、一般社会にとって新しい産業です。この読み物では、その情報セキュリティ分野の中で特に重要な役割を果たす「暗号技術」について、RSA暗号を中心に基礎を解説しました。

人類が歴史上「家に施錠」「書類に捺印」することの意味を理解した時と同様、近い将来、暗号の概念は 人間が生活する上で必要な最低限の知識、すなわち「文化」になると考えられます。しかし暗号は、情報セキュリティ技術の中でもコンピュータウィルス対策や、ファイヤーウォール・不正アクセス検知などとは異なり、「数論」や「代数学」といった難解な数学で成り立つ異色の存在であるため、一部の研究者だけのものとしてエンジニアにさえ敬遠されがちでした。それにも関わらず暗号技術は複雑化する一方です。

筆者は、これから暗号には「安全性の向上」のみならず、一般の人が直感的に安全を感じられ、心の底から「なるほど、だから安全なんだ」と実感できることが求められると考えました。そこで、RSA暗号などが義務教育過程の中高生にも理解できることを目標に解説することにしました。暗号は、それを乗り越えない限り「文化」になれないと思うからです。この読み物は、今では文系大学生の授業はもとより、中高生の自由学習の参考資料にも使用して頂いているそうです。

1997年の公開当時「暗号は情報化社会を作る必須の技術になった」と記したものの、当時はまだその必要性が理解されておらず、「コストがかかるならいらない」という軽い扱われ方をしているというのが正直な印象でした。しかし現在では、老若男女の大勢が「カード番号や個人情報の送信では HTTP では危くて HTTPS なら大丈夫」と認識されているという実感があり、本当に暗号が社会から必須で求められる技術になったと感じています。まさに、情報セキュリティの概念が文化になる予兆かもしれません。

「サルにもわかるRSA暗号」は、いかがだったでしょうか?少しでも「暗号って、意外に面白いな」と興味を持って頂けたら幸いです。そうです。現代暗号は軍事・外交に使われた過去の暗号とは異なり、とても明るく面白い技術なのです。今回はRSA暗号を簡潔に理解して頂くことに主眼をおいたため、共通鍵暗号やAES選定過程、セキュアハッシュ関数と呼ばれる応用的な暗号などには触れられませんでした。

しかし、暗号には非常に刺激的で面白い話題がまだまだあります。例えば共通鍵暗号やハッシュ関数は新たな方式と攻撃法の研究が熾烈に行われてきたエキサイティングで面白い分野です。公開鍵暗号も「ペアリング暗号」と呼ばれる新しい時代に入っており、普段は淡々と発表が行われている学会でも発表直後の質疑応答で突然客席から解読法が提案され、状況が一変するといったスリリングなやりとりも起きる程です。実装の世界では、コンピュータが使用する電力量変化や、僅かに漏れる電磁波から平文が推定される危険性が考えられ、近年急速に現実的脅威となってしまったため安全性を向上させる研究も進められています。これらに興味を持たれた方には、参考になる様々な書籍がありますので書店などで覗いてみて下さい。

『暗号理論』 – 絵と文章でわかりやすい! – 図解雑学
ISBN: 4-8163-3465-3 ナツメ社 1300 円

“サルにも分かるRSA暗号” から誕生した暗号本

「サルにもわかるRSA暗号」をお読み頂いた方から寄せられた「他の暗号も解説して」という声に応えて誕生。こちらはRSA暗号だけでなく、暗号分野全体がわかります。

今世紀の成長産業と言われる情報セキュリティビジネス。そんな情報セキュリティのコア・テクノロジーとなる暗号技術は、本来、大変難解な理論の基に成り立っています。これまでも専門書なら数多くありましたが、これから文化になりつつある暗号技術を、一般の人も理解できるように、と作られたのが本書です。

情報セキュリティ技術は、もはや IT エンジニアが避けて通ることはできません。しかし、その中でも暗号は、ウィルスやバッファオーバーフロー対策、ファイヤウォールの設定などとは趣きが異なり、そのプリミティブが 「数論」 によって作られています。従って、これまで敬遠しがちで、概念さえもよく分からずに「与えられた API も使えない」 というエンジニアも少なくありませんでした。本書は、専門書で理解できなかったエンジニアにも、暗号を知るきっかけにして頂けるかもしれません。

第一章 暗号の歴史と基礎 では、歴史や概念などの基礎知識、それら歴史的暗号の原理(スキュタレー暗号,シーザー暗号,上杉暗号,エニグマ,バーナム暗号)などを解説。

第二章 現代暗号の始まり では、DES の誕生〜 AES の決定に関わるエキサイティングなドラマはもちろん、共通鍵暗号の基礎知識や、その代表格である DES の原理、暗号化モード、公開鍵暗号が求められた理由などを解説。

第三章 公開鍵暗号の登場 では、公開鍵暗号の概念や誕生の背景、数学的基礎知識、そして代表格である RSA 暗号や ElGamal 暗号の原理、鍵管理問題やブレイクしたハイブリッド方式などを解説。

第四章 応用暗号理論 では、暗号から派生した技術を紹介。解読法の基礎知識、理論的解読法をはじめ、実装機器の物理的性質を利用したサイドチャネル攻撃、ハッシュ関数や鍵共有法、ワンタイムパスワード・チャレンジ&レスポンス・ゼロ知識対話証明などの認証技術、電子署名や電子透かしなどを解説。

第五章 社会を支える暗号技術 では、デジタル放送の CAS ( Conditional Access System ) に用いられるCPRM 等の RMP 、インターネットの WWW に用いられる SSL など、前章までの暗号プリミティブを用いた実装を紹介。

第六章 これからの暗号理論 では、近い将来を担う夢の量子暗号、楕円曲線暗号といったプリミティブ、電子現金、電子選挙、政府の e-Japan 構想で知られる電子政府などを紹介。

参考文献

その他の参考になる文献をご紹介します。

『秘密の国のアリス』 (2008)
結城浩 SBC 3150 円

難解な内容を明解に解説することで人気のある結城さんの著書で、2003年版からの新版。公開鍵暗号はもちろん、共通鍵暗号、署名、ハッシュ関数などのプリミティブから、SSL などの実際のプロトコルまで幅広い分野を扱っています。結城さんの本は暗号以外の分野でも分りやすいのでお勧めです。

『トコトンやさしい 暗号の本』 (2010)
今井秀樹 監修 日刊工業新聞 1470 円

暗号のはじまりから、実際の暗号プロトコルまで時代を追って解説されており、1ページ見開きで1項目が完結しているため読みやすい。著名な今井先生の監修で、学術系の一線で活躍されている方々が書いているので、入門書と言っても暗号界の最新動向がしっかり紹介されている。

『暗号 ポストモダンの情報セキュリティ』 (1996)
辻井重男 講談社 1500 円

世界最古の暗号から公開鍵暗号の誕生、共通鍵暗号の DES や公開鍵暗号の RSA 暗号を始め、歴史上の代表的な暗号について、歴史的背景、社会的位置づけから一般の人向けに分かりやすく解説されています。ソフトカバーの縦書きですので、電車内でも文庫本のように読みやすいと思います。

『暗号のすべて ユビキタス社会の暗号技術』 (2002)
辻井重男 講談社 1500 円

理論から実装まで様々な分野について、簡潔かつ詳細に分かりやすく説明されています。編者は国内の情報セキュリティ界でも大変有名なお二人の先生方で、各章も角尾(NEC の共通鍵暗号 CIPHERUNICORN 設計者)氏、土井氏(中央大学教授)、金子氏(日立製作所)、稲村氏(日本ベリサイン)ら第一線の暗号研究者として知られる蒼々たるメンバーの執筆で、内容も信頼できます。

『現代暗号』 (1997)
岡本龍明 山本博資 産業図書 3800 円

暗号分野を志す理系学生の入門書。数論や有限体・計算量理論など必須の知識、プリミティブから暗号プロトコルなどの応用まで、暗号学のメジャーのジャンルのすべてを幅広く、ざっと把握しておくのに最適の一冊です。同じ暗号の中でも、他人のジャンルには踈くなりがち。そんな時に忘れていた他のジャンルを軽く確かめたい時に辞書のようにも役立つでしょう。

『暗号・ゼロ知識証明・数論』 (1995)
岡本龍明 太田和夫 共立出版 4300 円

先生と生徒の対話形式で読みやすく、テーマになっている話題などを面白く読める本です。理系の学生向きで、特にゼロ知識証明について分かりやすく解説されています。筆者は AT&T (ルーセントテクノロジー)ベル研の客員研究員で、楕円曲線暗号における MOV 攻撃(O は岡本の O)でも有名な NTT の研究者です。上記『現代暗号』の著者でもあります。

『暗号のおはなし』 (1993)
今井秀樹 日本規格協会 1359 円

1993 年の初版を改訂した 2003 年版。特に共通鍵暗号の解説は他の本にないアプローチで分かりやすいです。読み物として書かれた書籍なので、比較的気軽に読むことができます。しかも、概念だけの近頃の本とは異なり、理論的までしっかり理解できます。文系など「概念だけでなく数学的根拠まで理解したい、でも専門書ではよくわからない」という方に向いています。


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