あとがき 〜 もっと知りたくなった方へ 〜

今世紀最大のビジネスに成長すると言われている分野の一つに、 情報セキュリティ産業があります。 本書は、そんな情報セキュリティ分野で最も重要な役割を果たす 「暗号技術」 について、RSA暗号を中心に基礎から易しく解説してきました。

人類が歴史上 「家に施錠」 「書類に捺印」 することの意味を理解した時と同様、 近い将来、暗号の概念は人間が生活する上で必要な最低限の知識、 すなわち 「文化」 になるだろうと考えられています。 しかし暗号は、情報セキュリティ技術の中でもコンピュータウィルス対策、 ファイヤーウォール・不正アクセス検知などとは異なり、 「数論」 や 「代数学」 という難解な数学で成り立つ異色の存在であるため、 一部の研究者だけのものとして、エンジニアからでさえ敬遠されがちでした。 それにも関わらず、暗号技術は複雑化する一方です。

そこで筆者は、今後の暗号には 「安全性の向上」 だけではなく、一般の人でも感覚的に理解でき、 心の底から 「なるほど、こういうわけで安全なんだ」 ということが実感できることが必要だと考えました。 そして、この情報化社会における暗号の実用性を飛躍的に高めるきっかけになった RSA暗号 を中心に、 義務教育である中高生にも理解できることを目標に解説することにしました。 暗号は、それを乗り越えない限り 「文化」 にはなれないと思うからです。 公開以来、この読み物は文系学生の授業や、 中高生の自由学習の時間の参考資料などにも使用して頂いているそうです。 まさに、情報セキュリティの概念が社会生活に必須となる予兆であるかもしれません。

「サルにもわかるRSA暗号」 は、いかがだったでしょうか? 少しでも 「暗号って、意外に面白いな」 などと興味を持って頂けたら幸いです。 そうです、現代の暗号技術は軍事・外交に使われた過去の暗号とは異なり、 とても明るく面白い技術なのです。 今回は RSA暗号 を簡潔に理解して頂くことを主眼においたため、 公開鍵暗号の誕生や、AES 選定の背景にある興味深いドラマや、 暗号全般のより深い歴史などの雑学的な話題などには触れられませんでした。

しかし、暗号には非常に刺激的で面白い話題がまだまだあります。 例えば、共通鍵暗号は新たな開発と攻撃法の発見の研究が熾烈に行われている、 特にエキサイティングで面白い分野です。 普段は淡々と発表が行われている学会でも、 発表直後の質疑応答で突然客席から解読法が提案され、 状況が一変するといったスリリングなやりとりも起きる程です。 こうなると 「いま発表されたばかりの安全性検証の結果は何だったんだろう…?」 といった感じになります。 こんな暗号に興味を持たれた方には、 「サルにもわかるRSA暗号」 から、 より幅広い暗号分野を解説した暗号本が発行されていますので、 是非、書店などで一度覗いて見て下さい。

 
『暗号理論』 - 絵と文章でわかりやすい! - 図解雑学
ISBN: 4-8163-3465-3 ナツメ社 1300 円
「サルにもわかるRSA暗号」 の読者から寄せられた 「他の暗号も解説して」 という声に応え、 画期的な暗号本が誕生しました。こちらはRSA暗号だけではありません。 暗号分野全体がわかります。

「サルにもわかるRSA暗号」 で 「初めてRSA暗号が理解できた!」 という方にお勧めの一冊です。 まずは書店で立ち読みしてみては?

今世紀の新しい産業と言われる情報セキュリティビジネス。 そんな情報セキュリティのコア・テクノロジーとなる暗号技術は、 本来、大変難解な理論の基に成り立っています。 これまでも専門書なら数多くありましたが、 これから文化になりつつある暗号技術を、 一般の人も理解できるように、と作られたのが本書です。

情報セキュリティ技術は、もはや IT エンジニアが避けて通ることはできません。 しかし、その中でも暗号は、ウィルスやバッファオーバーフロー対策、 ファイヤウォールの設定などとは趣きが異なり、 そのプリミティブが 「数論」 によって作られています。 従って、これまで敬遠しがちで、概念さえもよく分からずに 「与えられた API も使えない」 というエンジニアも少なくありませんでした。 本書は、専門書で理解できなかったエンジニアにも、 暗号を知るきっかけにして頂けるかもしれません。

第一章 暗号の歴史と基礎では、歴史や概念などの基礎知識、 それら歴史的暗号の原理 (スキュタレー暗号,シーザー暗号,上杉暗号,エニグマ,バーナム暗号) などを解説。第二章 現代暗号の始まりでは、 DES の誕生〜 AES の決定に関わるエキサイティングなドラマはもちろん、 共通鍵暗号の基礎知識や、その代表格である DES の原理、 暗号化モード、公開鍵暗号が求められた理由などを 解説。第三章 公開鍵暗号の登場では、 公開鍵暗号の概念や誕生の背景、数学的基礎知識、 そして代表格である RSA 暗号や ElGamal 暗号の原理、 鍵管理問題やブレイクしたハイブリッド方式などを 解説。第四章 応用暗号理論では、 暗号から派生した技術を紹介。解読法の基礎知識、理論的解読法をはじめ、 実装機器の物理的性質を利用したサイドチャネル攻撃、 ハッシュ関数や鍵共有法、 ワンタイムパスワード・チャレンジ&レスポンス・ ゼロ知識対話証明などの認証技術、電子署名や電子透かしなどを解説。 第五章 社会を支える暗号技術 では、 デジタル放送の CAS ( Conditional Access System ) に用いられる CPRM 等の RMP 、インターネットの WWW に用いられる SSL など、 前章までの暗号プリミティブを用いた実装を紹介。第六章 これからの暗号理論では、 近い将来を担う夢の量子暗号、楕円曲線暗号といったプリミティブ、 電子現金、電子選挙、政府の e-Japan 構想で知られる電子政府などを紹介。

 

参考文献

最後に、他の参考になる文献をご紹介します。

 
『秘密の国のアリス』 (2008)
結城 浩 著
SBC 3150 円

難解な内容を明解に解説することで人気のある結城 浩さんの著書で、 2003年版からの新版。 公開鍵暗号はもちろん、共通鍵暗号、署名、ハッシュ関数などのプリミティブから、 SSL などの実際のプロトコルまで幅広い分野を扱っています。 結城さんの本は、暗号以外の分野でも人気があり分りやすいのでお勧め。

 
 
『トコトンやさしい 暗号の本』 (2010)
今井 秀樹 監修
日刊工業新聞 1470 円

SCIS2011 のナイトセッションでも宣伝されていた暗号の入門書。 暗号のはじまりから、共通鍵、メッセージ認証コード、 公開鍵暗号、電子署名などのプリミティブから、 実際の暗号プロトコルまでおおまかに時代を追って解説されており、 1ページ見開きで1項目が完結しているため、少しずつ読んでいきやすい。 著名な今井秀樹先生が監修し、 学術系の一線で活躍されている方々が書いているだけあって、 入門書とは言っても暗号界の最新動向がしっかり紹介されている。

 
 
『暗号 ポストモダンの情報セキュリティ』 (1996)
辻井 重男 著
講談社 1500 円

世界最古の暗号から公開鍵暗号の誕生、 共通鍵暗号の DES や公開鍵暗号の RSA 暗号を始め、歴史上の代表的な暗号について そのしくみだけでなく、歴史的背景、社会的位置づけなどの そのしくみまで一般の人向けに分かりやすく解説されています。 ソフトカバーの縦書きですので、電車内でも文庫本のように読みやすいと思います。

 
 
『暗号のすべて ユビキタス社会の暗号技術』 (2002)
辻井重男 講談社 1500 円

理論だけでなく実装を含む様々な分野について、 短い中で詳細に分かりやすく説明されています。 2002年後半の発行ということもあり、 目まぐるしく発展する暗号技術の最新の動向について知ることができます。 編者は国内の情報セキュリティ界でも大変有名なお二人の先生方で、 各章も角尾(NEC の共通鍵暗号 CIPHERUNICORN の設計者としても有名)氏、 土井氏(中央大学教授)、金子氏(日立製作所)、稲村氏(日本ベリサイン) ら第一線の暗号研究者として知られる蒼々たるメンバーの執筆で、 内容も信頼できます。

 
 
『現代暗号』 (1997)
岡本龍明,山本博資
産業図書 3800 円

暗号学を志す理系学生の入門書に向いています。 数論や有限体・計算量理論といった暗号に必須となる一連の数学・工学的準備、 疑似乱数、共通鍵暗号(ストリーム暗号・ブロック暗号)、 ゼロ知識証明、相手認証、メッセージ認証、ハッシュ関数、 鍵共有方式、秘密分散といった重要な要素技術、 さらにはマルチパーティプロトコル、 電子選挙、電子契約、電子現金、量子暗号といった応用理論まで、 暗号学のメジャーのジャンルのすべてを幅広く、 ざっと把握しておくのに最適の一冊です。 また、上記の中で専門のジャンルを持ったばかりの最初のうちは、 意外と別のジャンルのことに疎くなります。 そんな時に忘れていた他のジャンルを軽く確かめたい時に 辞書のようにも役立つでしょう。 各論文へのリンクもあり、お勧めです。

 
 
『暗号・ゼロ知識証明・数論』 (1995)
岡本龍明, 太田和夫
共立出版 4300 円

先生と生徒の対話形式で読みやすく、 テーマになっている話題などを面白く読める本です。 特にゼロ知識証明について分かりやすく解説されています。 ただし、内容的には理系の学生向きです。 今後、公開鍵暗号系の世界に本格的に入っていく方に向いていると思います。 筆者は AT&T (ルーセントテクノロジー)ベル研の客員研究員で、 楕円曲線暗号における MOV 攻撃(O は岡本の O)などでも有名な NTT の研究者です。 上記の 『現代暗号』 の著者でもあります。

 
 
『暗号のおはなし』 (1993)
今井 秀樹 著
日本規格協会 1575 円

今井先生による大衆向けの暗号解説本で、1993 年の初版を改訂した 2003 年版。 なかでも共通鍵暗号の解説は他の本にはないアプローチで分かりやすく 説明されている気がします。分厚くなく、読み物として書かれているため、 比較的気楽に読むことができます。 しかしながら、概念だけが書かれた近頃の本とは異なり、 理論的なしくみまでちゃんと理解することができます。 文系の方などで 「概念だけでなく数学的根拠まで理解したい、 でも専門書ではよくわからない」 という方に向いていると思います。

 
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