7. 暗号の大革命

しかし 1976 年、 2000年もの長い間、仕方がないこととされていたこの問題を解決する、 暗号の革命とも言える全く新しい暗号方式の概念が、 Diffie と Hellman という二人の研究者によって発表されました。 この方法では、A と B という2つの鍵を使用します。 そして暗号化は、一方の鍵 ( A ) を使って行なうのですが、 こうして暗号化した暗号文は、なんとその鍵 ( A ) では復号することができず、 もう一方の鍵 ( B ) をもってのみ復号することができるという概念なのです。 また、逆にもう一方の鍵 ( B ) で暗号化した暗号文は、 一方の鍵 ( A ) でしか復号できないのです。

このような概念を導入することができれば、 暗号化して送ってもらいたい場合は、一方の鍵 ( A ) を世界に公開し、 送信者にその鍵を使って暗号化して送ってもらえばいいのです。 鍵 ( A ) は世界に公開するため、誰でも自分に文を送信できます。 しかし鍵 ( A ) では、暗号化はできても復号はできないので、 鍵 ( A ) を公開してしまっても自分に届くまで他人に解読されてしまうことはありません。 そして暗号文が届いたら、自分だけの秘密にしてあるもう一方の鍵 ( B ) を使って復号するのです。 これによって、見事に事前に当事者間で秘密の共通の鍵を 伝え合っておく必要がなくなるのです。

さらに、「私に暗号化して送る時に使ってくれ」 と公開した鍵 ( A ) を、 暗号化ではなく、逆に復号の鍵として利用できる時があります。 そう、暗号化が逆に自分だけの秘密の鍵 ( B ) を使って行われた場合です。 従って、ある文を自分が書いたものだとか、 自分は本当に自分だとか周囲に証明(認証)したい時には、 逆に自分だけの秘密の鍵 ( B ) を使って文を暗号化し、この暗号文を公開します。 周囲の人間は、公開されている鍵 ( A ) を使ってその暗号文を正しく復号することができるか確かめ、 それができれば本当に自分が書いた文だということが証明されるのです。 なぜなら、公開している鍵 ( A ) で復号できるような暗号文を作れるのは、 対応する秘密の鍵 ( B ) を持った本人だけのはずだからです。 これによって、暗号を印鑑のようなものとして使用することができます。

つまり、二つの鍵がこのような性質を持つ実際の暗号化方法があれば、 最初に述べた暗号の目的である、秘匿情報の伝達(昔、 シーザー暗号などを使っていたもの) と認証(昔、 合言葉などを使っていたもの) の両方を1つの暗号方式で行なえてしまうことになるのです。 この 「鍵の1つを公開してしまう」 という概念は、 それまでの鍵は送信者・受信者間で共通で秘密に取り扱わなければならないという、 当然のルールを覆す衝撃的なものであったため、このような概念の 暗号方式を公開鍵暗号と呼ぶようになりました。 そして、従来の暗号方式のことを、 送信者・受信者間で共通な鍵を用いることから共通鍵暗号と 呼ぶようになりました。

ただ、実際に 「ある数 ( 鍵 A ) を使って平文の数を暗号文の数に変換した際に、 一旦変換すると、 そのある数を知っていてももう平文の数には戻すことができず、 別のある数 ( 鍵 B ) を使うと元の数に戻せる」 などという都合のよい性質を実現することは常識的に考えても大変難しいことでした。 中には 「公開鍵暗号は概念としては素晴らしいが、 そんな数の性質を実現することなど不可能だろう」 という意見もありました。 実際、この公開鍵暗号の概念に気が付いた本人たちでさえも、 その方法をすぐに発見することはできず、 実現はまだ当分先のことだと考えられていました。

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